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浦和地方裁判所川越支部 昭和46年(ワ)90号 判決 1975年8月13日

原告

山内守夫

ほか二名

被告

東邦自動車販売株式会社

主文

1  被告は、原告山内守夫に対し金一、四二八万一、四一九円およびこれに対する昭和四五年二月七日から支払済まで年五分の割合による金員を、原告大塚よしのに対し金四六万七、九五四円およびこれに対する前同日から支払済まで前同割合による金員を、原告大塚敏子に対し金一七万一、〇四八円およびこれに対する前同日から支払済まで前同割合による金員をそれぞれ支払え。

2  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用中、原告山内守夫と被告との間に生じたものは、これを一〇分し、その一〇分の九を被告の、その余を同原告の各負担とし、原告大塚よしのと被告との間に生じたものは、これを二分し、その一を被告の、その余を同原告の各負担とし、原告大塚敏子と被告との間に生じたものは、これを三分し、その一を被告の、その余を同原告の各負担とする。

4  この判決の1項は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告は、原告山内守夫に対し金一、五四八万一、四一九円およびこれに対する昭和四五年二月七日から支払済まで年五分の割合による金員を、原告大塚よしのに対し金一〇六万〇、七六〇円およびこれに対する同日から支払済まで同割合による金員を、原告大塚敏子に対し金七七万円およびこれに対する同日から支払済まで同割合による金員をそれぞれ支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  この判決は仮に執行することができる。

二  被告

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは次の交通事故により負傷した。

(一) 日時 昭和四五年二月七日午前一一時四五分頃

(二) 場所 大宮市宝来八六〇番地先路上

(三) 態様 原告山内が普通乗用自動車(登録番号練馬五一さ五六四八、以下甲車という)を運転し、同車助手席に原告大塚よしの(以下原告よしのという)、同車後部座席に原告大塚敏子(以下原告敏子という)をそれぞれ同乗させて指扇駅方面から平方方面に向け進行中、反対方向から進行してきた佐藤洋一の運転する普通乗用自動車(登録番号五一せ四九五一、以下乙車という)に衝突され、原告らが負傷した。

(四) 結果 原告山内は頭部、右胸部および右腰部の各打撲、頸部捻挫の傷害を、原告よしのは頭部、両肘、左下腿および右前腕打撲の傷害を、原告敏子は腰部打撲、頸部捻挫の傷害をそれぞれ負つたほか、原告山内所有の甲車の前部が大破した。

2  被告は次の事由により原告らの後記損害を賠償すべき義務がある。

(一) 被告は、乙車を所有して自己のため運行の用に供していた者であるから、自賠法三条により原告らの後記人的損害を賠償すべき義務がある。

(二) 乙車の運転者佐藤としては、乙車の制動装置が故障し、その機能が不良であつたから、同車を運転すべきではないのに、右故障の事実を知りながら、あえて同車を運転した過失がある。そのため、前記日時、場所において、同車を運転して時速六五キロメートルくらいで進行中、甲車と離合するにあたり、ブレーキをかけたところ、乙車は、ブレーキの機能が正常であれば通常停止すべき距離内で停止しなかつたのみならず、ブレーキがいわゆる片効きをして右斜め前方に暴走し、乙車を避けて道路左端に停止した甲車に衝突し、本件事故の発生となつたものである。しかして、右佐藤は被告会社の従業員であり、同人は被告会社の職務として乙車を運転中、本件事故を惹起させたものであるから、被告は民法七一五条により原告山内の後記物的損害を賠償すべき義務がある。

3  原告らが本件事故によつて蒙つた損害は次のとおりである。

(一) 原告山内

(1) 人的損害

イ 逸失利益

原告山内は、本件事故当時三二才の健康な男子であつたが、本件事故による受傷のため、食事、排便も自力でできない廃人同様の身となり、生涯就労不能となつた。ところで、同原告は、本件事故当時、新和食品に勤務し、月収六万一、三三〇円を得ていたから、本件受傷がなければ、その後もなお三一年間は稼働しえて、その間右程度の収入を得ることができたはずである。そこで、同原告が生涯就労不能になつたことによつて失つた得べかりし利益の現価を法定利率による単利年金現価表によつて計算すると、一、四七五万七、一一九円となる。

ロ 慰藉料

本件受傷により廃人同様の身となつてしまつた原告山内の精神的苦痛を慰藉すべき金額としては五〇〇万円が相当である。

ハ 自賠責保険金の受領等

原告山内は右イ、ロの金額を合計した一、九七五万七、一一九円の損害を受けたが、自賠責保険金四四二万円を受領したので、同金額を右損害額から控除すると、残損害額は一、五三三万七、一一九円となる。

(2) 物的損害

原告山内は甲車の所有者である。同原告は本件事故で破壊された同車のためのレツカー車代および修理代として一四万四、三〇〇円を要した。

(二) 原告よしの

(1) 休業補償

原告よしのは、本件事故当時、新和食品に勤務し、月収四万六、七三〇円を得ていたが、本件事故による受傷のため昭和四六年二月六日まで一年間の休職を余儀なくされ、その間に五六万〇、七六〇円相当の得べかりし利益を失つた。

(2) 慰藉料

前記受傷により原告よしのが蒙つた精神的苦痛を慰藉すべき金額としては五〇万円が相当である。

(三) 原告敏子

(1) 休業補償

原告敏子は昭和四五年四月から有限会社蓜島豆腐店に日給九〇〇円で勤務することになつていたところ、前記受傷の結果一年間の休職を余儀なくされた。本件事故がなければ、右の間、日給九〇〇円で一か月に二五日は稼働することができたはずであるからこの間に失つた得べかりし利益の額は二七万円である。

(2) 慰藉料

前記受傷により原告敏子が蒙つた精神的苦痛を慰藉すべき金額としては五〇万円が相当である。

4  そこで、被告に対し、原告山内は前記残りの人的損害および物的損害を合計した一、五四八万一、四一九円ならびにこれに対する本件事故発生の日である昭和四五年二月七日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の、原告よしのは前記人的損害一〇六万〇、七六〇円およびこれに対する前同日から支払済まで前同性質、割合による金員の、原告敏子は前記人的損害七七万円およびこれに対する前同日から支払済まで前同性質、割合による金員の各支払を求める。

二  請求原因に対する認否および被告の主張

1  請求原因1中、(四)は知らないが、その余の点は認める。

2  請求原因2は認める。

3  請求原因3について

(一) 原告山内の損害の主張について

(1) 原告山内の人的損害の主張中、同原告が、本件受傷の結果、廃人同様の身となり、生涯就労不能の状態になつたとの事実は否認する。同原告の受傷の程度は全治二、三週間程度の軽微なものでしかないのに、同原告は、病院、病院等を転々としていたものであつて、同原告の症状は詐病である疑いが強い。すなわち、同原告が病院等を転々としたのは、同原告の治療を担当した各医師が同原告の症状が偽りであることに気付き、同原告のことを相手にしなくなつたからである。また、同原告は、昭和四六年九月二二日、社会保険埼玉中央病院神経科において、労災等級後遺障害三級三号(精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの)にあたるとの診断を、同月三〇日、同病院耳鼻科において、同後遺障害等級七級二号(鼓膜の中等度の欠損その他に因り両耳の聴力が四〇センチメートル以上では尋常の話声を解することができないもの)にあたるとの診断をそれぞれ受けているが、同原告は、その前年の昭和四五年一二月には電話級アマチユア無線技士の、その翌年の昭和四七年六月には電信級アマチユア無線技士の各免許を取得しているところ、これらの免許を取得するためには、社団法人日本アマチユア無線連盟の主催する養成課程を修了することが必要であり、かつ、耳のきこえない者、精神病者には免許が与えられないことになつているのであるから、それにもかかわらず、前記のとおり同原告に免許が与えられたということは、同原告には養成課程終了の能力があり、かつ、耳はきこえ、精神病者ではなかつたということになるのであつて、この事実は、前記各診断が、同原告の虚偽の申告や巧みな演出を看破することができなかつたことによる誤診であることの証左である。

また、同原告が受傷当時勤務していたという新和食品は昭和四四年一二月中に廃業しており、本件受傷当時同原告は無職だつたものである。

同原告が自賠責保険金四四一万円を受領していることは認める。

(2) 原告山内の物的損害の主張については知らない。

(二) 原告よしのの損害の主張については知らない。なお、同原告は自賠責保険金二九万円を受領しているから、これを同原告の損害額から控除すべきである。

(三) 原告敏子の損害の主張については知らない。なお、同原告は自賠責保険金一九万円を受領しているから、これを同原告の損害額から控除すべきである。

4  請求原因4は争う。

三  被告の主張3の(二)、(三)に対する認否

原告よしのおよび原告敏子がそれぞれ被告の主張する額の自賠責保険金を受領済であることは認めるが、これらはいずれも治療費として受領したものであるから、原告らの主張する損害額から控除されるべきではない。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  請求原因1(本件交通事故の発生)中、(一)事故発生の日時、(二)事故発生の場所および(三)事故の態様については当事者間に争いがない。そして、〔証拠略〕によれば、原告山内は、本件交通事故によつて、頭部挫傷、頸部捻挫、腰部および胸部挫傷の傷害を負つたことが、〔証拠略〕によれば、本件交通事故によつて、原告よしのは頭部挫傷、頸部捻挫、右撓骨端皹裂骨折および両膝関節部挫傷の傷害を、原告敏子は頸・胸椎捻挫、腰部打撲および右腸骨々折の傷害を負つたことがそれぞれ認められ、右認定に反する乙第一号証は信用できない。また、〔証拠略〕によれば、本件交通事故によつて原告山内所有の甲車の前部が大破したことが認められる。

二  請求原因2(自賠法三条ならびに民法七一五条による被告の責任)については当事者間に争いがない。

三  請求原因3の(一)(原告山内の損害)について

1  人的損害

(一)  逸失利益

(1) 本件事故当時における原告山内の健康状態と収入

〔証拠略〕を総合すると本件事故当時、原告山内は三二才の健康な男子で、弁当・仕出屋である新和食品(栗原松五郎経営)に勤務し、一か月につき六万一、三三〇円を下らない賃金を得ていたことを認めることができ、右認定に反する〔証拠略〕は信用できず、他に右認定を覆すにたりる証拠はない。

(2) 受傷後の原告山内の病状および治療の経過ならびに〔証拠略〕を総合すると、次の事実を認めることができる。

原告山内は本件事故による受傷後、直ちに救急車で大宮市内所在の湯沢外科に運ばれ、ここで一週間余り治療を受けた後、転医し、昭和四五年二月一六日から同年三月七日頃まで同市内所在の牧外科病院に通院して治療を受けた。同病院の牧広侑医師の診断では、原告山内は頭部挫傷、頸部捻挫、腰部・胸部挫傷の傷害で、同年二月一六日の初診時より六週間の通院加療が必要ということであつた。次に、同原告は、同年三月一六日、浦和市内所在の青木外科で診察を受けた。青木廣医師の診断では病名は外傷性頸腕症候群、同月一六日から四週間の安静加療が必要ということであつた。この頃、同原告は熊谷市内所在の小久保整形外科にも通院した。次に同原告は同年四月上旬から川口市内所在のさいわい診療所に通院して治療を受けていたが、この頃、同原告は頸部痛、後頭部痛、右上腕および右手指のしびれ感等を訴えており医師の検査結果では、右手握力の低下、上、下肢の腱反射亢進、脳波の軽度異常が認められた。同原告の主治医高橋俊平医師は、同原告は中等度の頸椎損傷を受けているほかに脳挫傷を伴つている疑いがあるとして、同原告を入院させることとした。そこで、同原告は同年五月二八日から同診療所に入院して治療を受けることになつた。同原告は、入院中、前記訴えのほか、頭重感、目まい、耳なり、吐き気、目がかすむ、食欲がない等の訴をしきりになした。また、発熱、ひどい物忘れが観察された。これに対し、高橋医師は、安静、頸部牽引、薬物治療をなしたが、治療の効果は認められなかつた。のみならず六月中旬頃からは、前記の訴えのほか、同医師らに対して反抗的態度をとる、拒食、じつとベツドに寝ていて「自殺する」とか「家に帰せ」と叫ぶ等の異常行動が出てきた。そこで、同医師は、同原告の症状ないし訴え中には頸椎捻挫ということでは説明のつかない詐病的なものが相当含まれていると見、これ以上同原告を入院させていても治療効果は上らないし、このままでは他の患者にも迷惑がかかるとして、同月二九日頃、パトカーを呼び同原告を強制的に退院させた。同医師の見立ては右のようなものであつたが、同診療所で同原告の診察にあたつた他の医師の中には、同原告の訴える目まいは本物であり、それは外傷に基因する小脳性又は脳幹性のものであると診断した者もあつた。同原告は、同診療所を退院させられた後、同年一一月頃までの二か月間ほどは大宮市内所在のさきたま病院に入、通院したが、その後、昭和四六年五月頃までは医師の治療を受けず、同月二七日から与野市内所在の飯岡外科で治療を受けるようになつた。飯岡医師は、原告には頑固な発作性の強い頭痛および運動失調(下肢が主)ならびに両耳の神経性難聴があると見、前者は脳幹部障害によるものであつて、これらの症状の改善は困難であろうと診断した。この頃までの同原告の病状は、独立歩行が可能で、原告よしのに付添つてもらえば、通院することができる程度の状態であつたが同年八月頃から更に病状が悪化し、通院も相当困難な状態となつた。そして、同年九月四日から同月二二日までの間に、四回にわたり、浦和市所在の社会保険埼玉中央病院に通院して、自動車保険料率算定会浦和査定事務所長から依頼を受けた同病院勤務医師中沢恒幸の診察を受けた。同医師は精神神経医学が専門で、右査定事務所長の依頼を受けてこれまで多数交通事故被害者の後遺障害の認定にあたつてきたベテランであつた。同医師は、問診、各種の検査および同査定事務所から提供された同原告がこれまでかかつた医師の診断書等の資料を検討のうえ、同原告には外傷に基因する小脳、脳幹部障害による頭痛と運動失調、両耳の神経性難聴があつて、この状態の大幅な改善は望めず、生活には補助を要し、作業は不能、知能低下も認められるとして労働者災害補償保険第三級第三号(精神に著しい障害を残し終身労務に服することができないもの)に該当すると診断した。なお、同原告は、その際同病院耳鼻科で医師一之瀬信子から聴力関係の診察を受け、同医師から、神経性難聴で労働者災害補償保険第七級第二号(鼓膜の中等度の欠損その他に因り両耳の聴力が四〇センチメートル以上では尋常の話声を解することができないもの)に該当するとの診断を受けた。ところで、この頃の同原告は、まだ独力での歩行が可能な状態であつたが、昭和四六年一一月頃からは一日中ほとんど寝たきりでいることが多くなり、昭和四九年一二月の時点では食事、排便も独力ではできない状態に立ち至つている。

以上の事実を認めることができ、右事実を総合すると原告山内は、本件事故による受傷の結果、生涯にわたり就労不能となつたと認めるのが相当である。

ところで、被告は、原告山内の病気は詐病であると主張するが、同原告の前記病状の経過等に照らすと、その主張は根拠がないといわなければならない。すなわち、前認定のとおり原告山内を初期に診察した各医師の診断では同原告の傷害の程度は比較的軽いものと見られていたが、同原告の右病状の推移等に照らすと、この事実は到底詐病の主張の根拠となしうるものではない。また、同原告が転医を繰り返したことも前認定のとおりであるが、〔証拠略〕を総合すると、原告山内らがたびたび転医したのは、被告らが本件事故の結果について責任を負おうとせず、原告らは無資力であつたところから、治療費の支払いに困り、一つ所の医者にかかりきりになることができなかつたことによるものと認められ、これに反する〔証拠略〕は信用できない。したがつて、右転医繰返しの事実も詐病の根拠となるものではない。

次に、高橋医師が原告山内の病状について詐病ではないかとの疑問を抱いたことは前認定のとおりであるが、前認定のとおり、同医師にしても、同原告の病状が全面的に詐病であると疑つたわけではなく、同原告が頸椎捻挫の傷害を負つており、脳挫傷の疑いがあるという基本線自体は最後まで承認していたのであつて、同原告のその後の病状の経過、右中沢証人の、同原告のような障害を負つた者が周囲と協調できなくなつてトラブルを起こすというようなことは大いに起こりうる現象であるとの証言等に照らすと、同医師の抱いた疑問も、前記中沢医師の診断ないし同原告が労働能力をまつたく喪失したとの認定を左右するにたりるものではない。次に、〔証拠略〕によれば、原告山内は、昭和四五年九月二八日、社団法人日本アマチユア無線連盟の行なつた電話級アマチユア無線技士の養成課程を終了し、同年一二月一五日、同級アマチユア無線技士の免許を得、次いで、昭和四七年四月二九、三〇日の両日、右連盟の行つた電信級アマチユア無線技士の養成課程を受講し、同年六月一六日、同級アマチユア無線技士の免許を得たことになつていることおよび右各アマチユア無線技士の免許は、精神病者、耳のきこえない者には与えられないことになつていることがそれぞれ被告の主張するとおり認められるが、実際問題として、右養成課程修了の難易度や欠格事由の有無の審査等がどの程度厳格になされているのかについての立証がなく、その程度が不明であるのみならず、かえつて、〔証拠略〕によれば、右はかなりルーズに行なわれていることがうかがわれるので、右事実も直ちに前記中沢医師の診断や労働能力喪失の認定を左右するものとはいえない。また〔証拠略〕は信用できず、他に原告の詐病を認め、あるいは、前記労働能力喪失の認定を覆すにたりる証拠はない。

(3) 逸失利益の計算

以上のとおり、原告山内は、本件事故当時、三二才の健康な男子で一か月につき六万一、三三〇円を下らない稼働収入を得ていたところ、本件事故による受傷によつて労働能力をまつたく喪失し、稼働収入をまつたく得ることができなくなつたわけであるが、本件事故がなければ、同原告はその後もなお三一年間は稼働しえて、その間右を下らない収入を得ることができたものと考えられる。そこで、同原告が失つたこの間の得べかりし利益の現価を年毎式の法定利率による単利年金現価表によつて計算すると、一、三五五万七、一一九円となる。

算式 (61,330×12)×18.421

(二)  慰藉料

原告山内の後遺障害の程度、その他諸般の事情を総合考慮すると、同原告に対する慰藉料の額は五〇〇万円が相当である。

(三)  自賠責保険金の受領等

原告山内が自賠責保険金四四二万円を受領し、これを同原告が蒙つた損害額から控除すべきことは同原告において自認するところであるから、同金額を右逸失利益と慰藉料の額の合計額から控除すると、残損害額は一、四一三万七、一一九円となる。

2  物的損害

甲車が原告山内の所有に属すること、同車が本件交通事故によつて大破したことは前認定のとおりであり、同認定に用いた証拠によれば、原告山内は甲車の牽引および修理の費用として一四万四、三〇〇円を要する損害を蒙つたことが認められる。

四  請求原因3の(二)(原告よしのの損害)について

1  休業補償

原告よしのが本件交通事故によつて頭部挫傷、頸部捻挫、右橈骨端皹裂骨折、両膝関節部挫傷の傷害を負つたことは前認定のとおりであり、〔証拠略〕によれば、同原告も又頭痛、謳吐感、右上、下肢のしびれ感等に苦しみ原告山内と同一の経路で転医しながら通院治療を受けたが、十分な治療効果が得られず、同年一一月末までは就労することができなかつたことが認められ、右に反する〔証拠略〕は信用できず、他に右認定を覆すにたりる証拠はない。

しかし、更に同原告が右受傷のためこの時点以後も就労することができず、あるいは労働能力が制限されたことを認めるにたりる証拠はない。

〔証拠略〕によれば、本件事故当時、原告よしのは原告山内と共に前記新和食品に勤務し、一か月につき四万六、七三〇円を下らない稼働収入を得ていたことが認められ、これに反する〔証拠略〕は信用できず、他に右認定を覆すにたりる証拠はない。

そうすると、原告よしのは、本件事故による受傷の結果、昭和四五年一一月末日まで、一か月につき四万六、七三〇円の割合による得べかりし稼働収入を失つたことになるから、その額を計算すると四五万七、九五四円となる。

算式 46,730×(9+24/30)

2  慰藉料

原告よしのの受傷の程度、その他諸般の事情を総合考慮すると、同原告に対する慰藉料の額は三〇万円が相当である。

3  自賠責保険金の控除等

原告よしのが自賠責保険金二九万円を受領したことは当事者間で争いがない。原告は、右保険金は全額治療費として受領したもので、すべて原告が損害として請求していないものに充当されたから、これを原告主張の損害額から控除すべきではないと主張するが、右金額中に休業補償分、慰藉料分等が含まれていなかつたことを認めるにたりる証拠はないし、そもそも、交通事故被害者の治療費、休業補償、慰藉料等の人的損害は全体で一つの訴訟物を構成するものであり、給付された自賠責保険金は、保険金算出の段階ではともかく、訴訟の段階では、全一体としての人的損害を填補するものと解するのが相当であるから、右金額を同原告の損害額中から控除するのが相当である。そうすると、同原告の残損害額は四六万七、九五四円となる。

五  請求原因3の(三)(原告敏子の損害)について

1  休業補償

原告敏子が本件交通事故によつて、頸・胸椎捻挫、腰部打撲および右腸骨々折等の傷害を負つたことは前認定のとおりであり、〔証拠略〕によれば、原告敏子は右受傷の結果頭痛、頸部痛、腰部痛等に苦しみ、原告山内、同よしのと同一の経路で転医しながら通院治療を受けたが、右骨折の治療のため、昭和四五年六月二九日からなお少なくとも二か月程度の安静加療を必要としたことおよび同原告はこの間就労していないことが認められ、右認定に反する〔証拠略〕は信用できない。しかし、更に同原告が、右受傷のためこの時点以後も就労することができず、あるいは労働能力が制限されたことを認めるにたりる証拠はない。

〔証拠略〕によれば、原告敏子は、事故当時中学三年生で、昭和四五年四月一日から大宮市内の有限会社蓜島豆腐店に日給九〇〇円で勤務することになつていたことが認められ、これに反する〔証拠略〕は信用できず、他に右認定を覆すにたりる証拠はない。

そうすると、原告敏子は、本件事故がなければ、昭和四五年四月一日から一日九〇〇円の日給で一か月二五日は稼働しえて、月収二万二、五〇〇円を得ることができたはずであつたのに、右受傷の結果、昭和四五年八月二九日までの稼働収入を失つたことになるから、その額を計算すると一一万一、〇四八円となる。

算式 22,500×(4+29/31)

2  慰藉料

原告敏子の受傷の程度、その他諸般の事情を総合考慮すると、同原告に対する慰藉料の額は二五万円が相当である。

3  自賠責保険金の控除等

原告敏子が自賠責保険金一九万円を受領したことは当事者間で争いがない。そこで、原告よしのに関して述べたと同理由により、右金額を原告敏子の損害額中から控除するのが相当である。そうすると、同原告の残損害額は一七万一、〇四八円となる。

六  以上の次第で、被告に対し、原告山内は残りの人的損害および物的損害を合計した一、四二八万一、四一九円ならびにこれに対する本件事故発生の日である昭和四五年二月七日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の、原告よしのは残りの人的損害四六万七、九五四円およびこれに対する前同日から支払済まで前同性質、割合による金員の、原告敏子は残りの人的損害一七万一、〇四八円およびこれに対する前同日から支払済まで前同性質、割合による金員の各支払を請求しうべき権利があるから、原告らの各請求を右の限度で正当として認容し、原告らのその余の請求はいずれも理由がないので失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 浜井一夫)

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